胡蝶蘭を検品する農協の人間が、鉢を持ち上げて最初に見る場所

コラム
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届いた胡蝶蘭が良い鉢なのか、贈る前に見分けたい。
そう思っても、花のどこを見ればいいのか迷う方は多いはずです。

農協で30年以上、胡蝶蘭の品質管理を担当してきた村田和彦です。
検品で私が最初にやるのは、花を眺めることではなく、鉢を持ち上げて鉢底を見ることです。
花より先に根と重さを見る、という話です。
この記事では、私が見る順番を、ご家庭や職場でもできる形にしてお伝えします。

検品の最初の一手は、花ではなく鉢を持ち上げること

花や葉は整えられても、鉢底は繕えない

農協の検品台には、生産者から届いた鉢が何十と並びます。
新人の頃の私は、花の色や輪数にばかり目が向いていました。
見かねた先輩から「花はお客さんが見る。おまえは見えないところを見ろ」と言われ、鉢を持ち上げる癖がついたのです。

花は咲き具合を整えて出せますし、葉も拭けばツヤが出ます。
根だけは繕えません。
根が傷んだ鉢は、しばらくしてから葉のしわや蕾落ちとして表に出てきます。
検品で気づければ、お客様の手元に届く前に止められます。

私が見る順番は「鉢底、根、葉、蕾、花」

傷みが出やすいところから先に見るほうが、見落としが少なくなります。
花から見てしまうと、きれいさに気を取られて根の異変を見逃しがちです。
農協や産地によって細かな基準は違いますので、以下は私の現場でのやり方としてお読みください。

見る順良い状態避けたい状態
鉢の重さ・鉢底湿りすぎず、乾ききってもいないずぶ濡れで重い、または軽くて植え込み材がカラカラ
根銀白色から緑色で、太くて硬い黒や茶色でぶよぶよ、細く縮れている
葉濃い緑で、ハリとツヤがあるしわ、黄ばみ、斑点がある
蕾先端まで詰まって、ふっくらしている黄ばむ、しなびる、落ちた跡がある
花花びらに厚みがあり、色が揃っている透けた斑点、縁の褐変、しおれがある

ここからは、上から順に見ていきます。

鉢を持ち上げた瞬間にわかること

重さは水の量と根の働きを教えてくれる

胡蝶蘭は水苔やバークといった植え込み材に植わっていて、乾いた鉢は軽く、水を含んだ鉢は重くなります。
私は片手で鉢を持ち上げ、乾きすぎていないか、濡れすぎていないかを手のひらで確かめています。

重さだけで良し悪しは決まりません。
元気な根は水を吸って植え込み材を少しずつ乾かしていくので、水やりから日が経てば鉢は軽くなります。
根が傷んでいると水を吸えず、いつまでも重いままです。
世界らん展の育て方解説でも、植え込み材や根が病原菌に冒されると株の勢いが落ちるため、植え込み材をしっかり乾かすことが大切だと説明されています。

疑わしい鉢は、2〜3日おいてからもう一度持ち上げます。
重さがほとんど変わらないなら、根が水を使えていない可能性があります。
これは検品で迷ったときに使う、私なりの確かめ方です。

鉢底の穴から根を見る

次に鉢を傾けて、鉢底の穴から根をのぞきます。
メリーランド大学エクステンションによると、胡蝶蘭の空中に出た根は、鈍い銀色や白から、水を含むと薄い緑色に変わります。
世界らん展の解説では、根の量が多く、植え込み材の中から外へ張り出している株は健康な状態とされています。

根で見るのは、色と太さと硬さです。
色の目安は次のとおりです。

  • 銀白色から白は、乾いている状態で、水やりが近い
  • 薄緑から緑は、水を吸った直後で、元気に働いている
  • 黒や茶色で、触るとぶよぶよしているものは、傷んでいる
  • 細く縮れて、本数もほとんど見えないものは、育ちが悪いか、根が失われている

根の本数が少ない鉢は、花が咲いていても長くはもたないというのが、私の経験則です。

ラッピングや鉢カバーで根が見えないとき

贈答用の胡蝶蘭は、ラッピングや鉢カバーで鉢がすっぽり隠れていることがほとんどです。
届いたら、鉢を出せるところまで出してみてください。
鉢カバーの底に水がたまっていると、根が水に浸かった状態になりやすいからです。
水がたまっていたら捨て、鉢底が乾くまで様子を見ます。

透明の鉢に入っている場合は、外から根の色がそのまま見えるので、いちばん確かめやすい形です。

葉と株元に残る、育てられ方の履歴

葉のハリとツヤ、しわの意味

世界らん展の解説では、株選びの目安として「葉に張りとツヤがある株」が挙げられています。
検品でも同じで、葉を指でそっとはさんで、厚みと弾力を確かめます。

しわの寄った葉は、水が足りないサインです。
メリーランド大学エクステンションも、湿度が低いことと水が少ないことが、葉のしわの原因になると説明しています。
ただ、根が傷んで水を吸えないときも、見た目は同じようにしわが寄ります。
だからしわを見つけても、すぐに水は足さず、先に根を見ます。
この順番を間違えると、水を足したせいで根腐れを進めてしまいます。

黄ばみについては、私の経験では、いちばん下の葉が1枚だけ黄色くなるのは葉の入れ替わりで済むことが多いです。
数枚が一度に黄ばむときや、上のほうの葉から黄ばむときは、根や置き場所の問題を疑います。

葉の並びと株元のぐらつき

葉が左右にバランスよく広がり、枚数も揃っている株は、順調に育ってきたとみています。
片側に偏っていたり、葉が極端に少なかったりする株は、育つ途中で何かあったのかもしれません。

株元を指で軽く押さえて、ぐらつかないかも見ます。
ぐらつくのは、根が鉢の中でしっかり張れていない状態です。
葉の付け根に水がたまって黒ずんでいないか、まで確かめれば、株元は十分です。

蕾と花は、咲いた数より咲き進みで見る

産地が八分咲きで出す理由

胡蝶蘭は、産地では8分咲き程度まで咲かせて出荷するのが基本とされています。
全部咲き切った状態で出さないのは、配送中や店頭、贈られた先で咲き進む余地を残すためだと、私は理解しています。

贈答では、全部咲いているほうが豪華に見えて選ばれがちです。
ただ、咲き切った鉢は、そこから先は散っていく一方です。
蕾が先端まで緑色でふっくらと詰まり、花茎の先に少し残っている株を、私は良い状態と見ています。

蕾の黄ばみと、落ちた跡

蕾が黄色くなってしなびるのは、低温や急な環境の変化が原因になりやすいです。
胡蝶蘭は15℃を下回ると蕾が落ち始めることは、別の記事でも触れました。
世界らん展の解説も、日当たりのよい窓辺は夜間に冷気にさらされるため注意が必要としています。

花茎をたどって、蕾や花が落ちた跡がないかも見ます。
付け根だけが小さく残っている箇所があれば、輸送や保管の途中で一度冷えたか、ぶつけたかを疑います。
冬に届いた鉢は、箱の中で冷えていないかを、特に気をつけて見てください。

贈る前、受け取った日にできる確認

贈る側が注文前に聞いておきたいこと

花屋や通販に頼む場合、鉢底や根は自分の目で見られません。
そのぶん、注文の段階で、次のようなことを聞いておくと安心です。

  • 鉢を出した状態で、根の様子を写真で見せてもらえるか
  • 蕾は何輪くらい残っていて、いつ頃まで咲き進むか
  • 冬場の配送で、冷えを防ぐ対策をしているか
  • 届いた鉢に傷みがあったとき、いつまでに連絡すればよいか

店によって対応は違います。
根や蕾について具体的に答えてくれる店かどうかは、それ自体が判断材料になります。

受け取った側が、箱を開けた日にやること

届いた日にやることは、検品の順番をそのまま短くしたものです。

  • 鉢を持ち上げて、重さを見る
  • 鉢カバーを外して、鉢底と根の色を見る
  • 鉢カバーの底に水がたまっていれば捨てる
  • 葉を触って、ハリとしわを見る
  • 蕾の黄ばみと、落ちた跡を見る
  • 窓辺の夜間の冷えと、エアコンの風が当たる場所を避けて飾る

鉢がずっしり湿っているなら、水やりは急ぎません。
もし状態が悪ければ、届いた当日のうちに写真を撮って、購入先へ連絡してください。
日が経つと、傷みの原因が輸送中のものか、飾ってからの環境なのかが分からなくなってしまいます。

傷みを見つけたとき、連絡するかどうかの分かれ目

根に黒いものが1〜2本混じっていても、残りが銀白色から緑色で太く張っていれば、私はすぐに傷んだ鉢とは判断しません。
古い根が一部だけ傷んでいる鉢は珍しくなく、検品でもこの程度なら通しています。
連絡を考えるのは、たとえば次のような場合です。

  • 根の半分以上が黒や茶色で、触るとぶよぶよしている
  • 数日おいても鉢の重さが変わらず、植え込み材から酸っぱいようなにおいがする
  • 蕾の大半が黄ばんでいる、または花茎に落ちた跡が何か所もある
  • 株元がぐらつき、葉に何枚もしわが出ている

「半分以上」という線は、農協の規格ではなく私の感覚です。
迷ったときは、写真を添えて購入先に聞いてみるのが確実です。

まとめ

胡蝶蘭の良し悪しは、花より先に、鉢を持ち上げたところで見えてきます。
重さで水の状態を読み、鉢底の根の色を見て、葉のハリ、蕾の詰まり方、花の順に進めていくのが、私の検品の順番です。

農協の検品台で30年見てきて思うのは、根の元気な鉢は、あとから咲き進む花もきれいだということです。
次に胡蝶蘭が届いたら、花を眺める前に、まず鉢をそっと持ち上げてみてください。

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